欧州関連

ウクライナ国境の封鎖45日目、再開される抗議活動は来年3月まで続く可能性

ポーランドの運送業者によるウクライナ国境の封鎖は45日目に突入、封鎖が解除されていたドロフスク(ヤゴディン検問所)での抗議活動が18日午後2時から再開される予定で、ポーランドメディアは「この抗議は来年の3月8日まで続く可能性がある」と報じている。

参考:Jutro przewoźnicy rozpoczną nowy protest na drodze do Dorohuska
参考:Польские перевозчики снова будут блокировать КПП “Дорогуск-Ягодин”

ドロフスク(ヤゴディン検問所)での抗議再開にはポーランド農民達も合流する見込みで問題が複雑化

EUはウクライナ支援の一環として「道路による貨物輸送の自由化協定」を昨年6月に締結、これによりウクライナの運送業者は「EU域内でのトラック輸送」に許可を取得する必要がなくなり、国境を越える取り扱い貨物量も2021年と比較して53%も増加、この結果を受けてEUとウクライナは今年3月に「自由化協定の1年延長」で合意したのだが、ポーランドの運送業者は「自由化協定」の影響で自分達のビジネスが不利益を被ったと主張。

出典:Serhiy Derkach

ポーランドの運送業者は「自由化協定の取り消し」と「ウクライナ運送業者に対する許可取得の復活」をEUに訴えるため、ポーランドとウクライナの国境にあるクラコヴェッツ検問所、ヤゴディン検問所、ラーヴァ・ルーシカ検問所を11月3日から封鎖(検問所を通過できるトラックの数を1時間あたり1台か2台に制限)、抗議活動に合流したポーランドの農民達も「ウクライナ産穀物の流入で被った被害を軽減させる補助金の増額」などを求めてシェギーニ検問所を封鎖。

これにより7.5トン以上のトラックを通過させる全検問所が封鎖され、ポーランド経由でウクライナに運び込まれる一般貨物、人道援助物資、燃料(LNG、ガソリン、軽油など)など影響を受け、11月24日までに4億ユーロ以上の被害が発生、さらにロイターは「ウクライナ軍が依存しているボランティア団体やNGOからの軍事援助(無人機、暗視装置、電子機器、防弾チョッキ、ピックアップトラックなど)が国境封鎖の影響で届かなくなっている」と報じている。

出典:United24 ウクライナ製のドローン

ウクライナ国内で軍事向け装備を製造する企業も「このまま封鎖が続けば大きな問題になるし既に影響も出始めている。工場で使用している機械部品、無人機のエンジン、無線装置に使用する電源ユニットの供給に遅れが生じている。国の国防プロジェクトに参加する民間企業が海外で調達した大量の部品が国境で立ち往生している」と事態の深刻さを訴えていたが、ポーランド南部のヴォイチェフ・サワ市長は12月11日「ドロフスク(ヤゴディン検問所)の抗議者に解散を命令した」と発表。

ウクライナ国家国境庁も「11日午後2時にドロフスクでの抗議活動が終了してヤゴディン検問所の封鎖が解除された」と明かし、ポーランド経由の物流混乱に改善の兆しが見えたが、ルブリン地方裁判所は15日「抗議者らはドロフスクで抗議を続けることができる」と判決を下し、抗議活動を主導するパヴェル・オジガラ氏はポーランドメディアの取材に「18日午後2時からドロフスク(ヤゴディン検問所)での抗議を再開する。この抗議は3月8日まで続く可能性がある」と明かした。

オジガラ氏が言及した「3月8日」と数字は「当局に提出した抗議活動の期間(12月18から3月8日まで)と一致し、運送業者が要求している「自由化協定の取り消し」や「ウクライナ運送業者に対する許可取得の復活」などが認められない限り「国境封鎖が続く」という意味で、要求が満たされない限り「抗議活動の期間延長」を何度でも申請するつもりなのだろう。

因みに現時点で国境封鎖が解除されているヤゴディン検問所(1日あたりの関税処理は約650台)にはトラックが集中しており、ポーランドメディアは「ドロフスク(ヤゴディン検問所)で発生しているトラックの列は約70kmで検問所通過に要する平均時間は約100時間(4.1日)だ」と、国境封鎖が続くフレベンネ(ラーヴァ・ルーシカ検問所)については「トラックの列は約30km(約500台)で検問所通過に要する平均時間は約125時間(5.2日)だ」と報じている。

追記:抗議を主導する極右政党「同盟」のラファウ・メクレル氏は「18日に抗議が再開されるドロフスク(ヤゴディン検問所)にはポーランド農民達も合流する」と明かしており、ヤゴディン検問所の封鎖が始まれば緩和されていた検問所通過にかかる時間が再び増加に転じ、通過を待つトラックの列も今以上に長くなるしかない。

しかも問題を解決するには運送業者と農民の異なる要求を満たさなければならず、抗議者の要求を政治的に解決する難易度は高まった格好だ。

関連記事:ウクライナ国境の封鎖43日目、ポーランドの裁判所が抗議活動の再開を許可
関連記事:ポーランド新首相、民主主義のために戦うウクライナへの支援を呼びかける
関連記事:ウクライナ国境の封鎖38日目、ヤゴディン検問のみ封鎖の解除が実現
関連記事:ウクライナ国境の封鎖33日目、ドローンや暗視装置の輸入に数週間の遅れ
関連記事:26日目に突入したウクライナ国境の封鎖、スロバキア人も12月1日から封鎖に合流
関連記事:ポーランド運送業者によるウクライナ国境の封鎖、2024年2月1日まで延長
関連記事:ウクライナ国境の封鎖は19日目に突入、人道援助、LNG、ガソリンの輸送に支障
関連記事:ポーランド人によるウクライナ国境封鎖は15日目に突入、トラック輸送が停滞
関連記事:ポーランド新政権の行方、ドゥダ大統領は法と正義に政権樹立を命じる
関連記事:ポーランド総選挙でPiSが過半数を失う、POは野党連合による新政権を樹立を主張

 

※アイキャッチ画像の出典:pexels 国境封鎖とは無関係のイメージ

ウクライナメディア、ザルジニー総司令官のオフィスで盗聴器が見つかる前のページ

ドイツ軍再建における最大の問題は人材確保、国防相が義務的徴兵を検討次のページ

関連記事

  1. 欧州関連

    共同開発の泥沼から脱出? 第6世代戦闘機「FCAS」プロジェクトが技術実証機製造フェーズに移行

    今月の12日、フランスとドイツは遅れていた第6世代戦闘機「FCAS」プ…

  2. 欧州関連

    ウクライナ国境の封鎖33日目、ドローンや暗視装置の輸入に数週間の遅れ

    ポーランドの運送業者による国境封鎖は33日目に突入、ロイターは「ウクラ…

  3. 欧州関連

    サウジはGCAP参加のため巨額の資金で英伊を買収可能、日本は未知数

    英国はサウジに「サルマン皇太子のロンドン訪問」を要請したためGCAP参…

  4. 欧州関連

    アゼルバイジャンがスペイン会談を拒否、南コーカサスからの仏排除が目的

    フランスのコロンナ外相は3日「軍事装備の供給に関する将来の契約について…

  5. 欧州関連

    空母への無人機統合に動く英海軍、開発予定の無人早期警戒機に関するアイデアを募集中

    英国防省は電磁式カタパルトとアレスティングワイヤに関するRFIを発行に…

  6. 欧州関連

    残念過ぎる英海軍の45型駆逐艦、停電問題と人員不足で4年も港で係留中

    英メディアは20日、10億ポンド(約1,310億円)もの費用をかけて建…

コメント

    • ふむ
    • 2023年 12月 18日

    原因(ウクライナ支援でウクライナの運送業者が来て労働供給がジャブジャブになったのでビジネスが苦しい)が解決してないんだから、抗議だけが消える訳も無く…
    首脳会談で対策打ち出せなかったんですかね、ハンガリーが反対して500億ユーロの支援潰れたとかやってたんだから話し合う機会はあったはずですが…

    イエメンのフーシ派も紅海封鎖に成功しつつある(海運大手が喜望峰ルートに振り替え始めた)ようで、直接戦場にされなくとも経済には影響出るのが如実にわかる昨今

    18
    • たむごん
    • 2023年 12月 18日

    ウクライナの外交能力は低いため、日本も損切りの準備に入る必要がありますね。

    戦時中の兵站線・最重要隣国(ポーランド)との外交交渉をできない訳ですから、ウクライナ政府は国内トラック業者を抑え込む政治力すらないわけです。
    ウクライナが、ロシアと停戦交渉するために、国内を押さえ込む事を期待できないということです。

    日本が、ウクライナに歴史上世話になったわけでもないですし、交易で何か得られるようなものもありません(日本は支払い超過で復興利権もありません)。
    プーチン大統領が、日本との資源取引にわざわざ触れている訳ですから、ロシアとの外交チャンネルを維持する事が重要でしょうね。

    EUは、ロシアから天然ガスの輸入を減らしていますが(ウクライナ経由は継続)、2023年1月~9月期のロシア産LNG輸入は前年同水準を継続しています。
    (2023年11月14日 ロシア産LNGを輸入し続けるEU~天然ガスの脱ロシア化までの道のりは遠い 三菱UFJリサーチ&コンサルティング)
    ウクライナはヨーロッパの問題なのに、EUが煮え切らない態度を続けている訳ですから、日本もロシア産LNG輸入を堂々と継続していけばいいわけです。

    30
      • 名無し
      • 2023年 12月 18日

      無理ですね
      日本がロシアとの貿易を続けていることがどこかに指摘、非難されて抜けられなくなるだけでしょう

      1
        • たむごん
        • 2023年 12月 18日

        ロシアとの貿易は、今も続けているんですよ。

        13
    • 名無し
    • 2023年 12月 18日

    ロシアへの経済制裁よりもよっぽど効いてないか…?

    16
      • 歴史と貧困
      • 2023年 12月 18日

      自発的にロシア国境を封鎖した業者や農民は、いませんでしたからね・・・(相手が怖すぎる)

      5
        • nanashi
        • 2023年 12月 18日

        そもそも庶民レベルでロシアに反発する人間なんて、世界で殆ど居ないんじゃないでしょうか。
        ロシアとの交流で利益を得て格安の資源を購入し暮らせていたのが、今や鬼のようなインフレと難民の津波に苦しんでるのです。
        米英の掲げる民主主義の聖戦なんてどうでもよく、さっさと戦争終われと思ってるんじゃないでしょうか。

        21
          • 歴史と貧困
          • 2023年 12月 18日

          確かに、おっしゃる通りと思います。
          「聖戦の大義」を掲げるのは、特権階級か富裕層、その扶持で飯を食う知識人層、という構図は今も変わっていない。悲しいというか、虚しいというか。

          14
            • たむごん
            • 2023年 12月 18日

            『聖戦』分かりやすい表現で、腑に落ちました。

            まさにこれですね、聖戦だからインフレの辛苦に耐えろと。
            血気盛んなのは、ビジネスに関わる人・政治屋・安全地帯にいる人・エンタメ感覚の人ばかりですからね。

            インドは、ロシアと上手くやって、インフレを押さえ込んでいますね。
            西側が聖戦に熱中して貧乏になっていく中で、インドなどを生産拠点・投資先の受け皿に大企業は粛々と引っ越していわけです。

            5
              • 朴秀
              • 2023年 12月 18日

              問題は我々も「自由と正義の西側」なんですよね
              岸田総理はドイツとかとは違って面従腹背(口ではロシアを非難しつつガスを買う)で上手くやっている方ですけどダメージを受ける方には違いないです

              米英は願望と予測を一緒にするなと

              5
                • たむごん
                • 2023年 12月 18日

                アメリカは石油・天然ガスを自給、重質油は一部輸入。
                イギリスは天然ガス2020年消費量の約80%が近海、国産48%・ノルウェー産約30%です。
                (2021年11月11日 ガス価格高騰、どうなる英国のエネルギー政策 JETRO)

                仰る通り、米英は押し付けてこないで欲しいですよね(日本のエネルギー問題は他人事な訳です)。

                3
    • ak
    • 2023年 12月 18日

    この問題に関しては100%ウクライナの自爆行為で、即座の解決法もウクライナ側にしか無い。

    それを無視して権力者がひたすら掴んだ利権の確保のみに精を出すような国が滅んでも、知ったこっちゃない。死ぬまで勝手にやれや。
    という単純な話。
    同情する必要も交渉してやる必要もカケラも無い。ボールを持っているのはカスライナの側。

    19
  1. この記事へのトラックバックはありません。

  1. 欧州関連

    トルコのBAYKAR、KızılelmaとAkinciによる編隊飛行を飛行を披露…
  2. 中東アフリカ関連

    アラブ首長国連邦のEDGE、IDEX2023で無人戦闘機「Jeniah」を披露
  3. 日本関連

    防衛装備庁、日英が共同で進めていた新型空対空ミサイルの研究終了を発表
  4. 米国関連

    米海軍の2023年調達コスト、MQ-25Aは1.7億ドル、アーレイ・バーク級は1…
  5. 欧州関連

    BAYKAR、TB2に搭載可能なジェットエンジン駆動の徘徊型弾薬を発表
PAGE TOP