カナダはF-35導入契約の見直しを進めている最中で、ベック国防副大臣は「新たな指示を受け取るまで既存の取り決めに従って契約を維持する」と述べていたが、カナダ国営放送は10日「政府がF-35Aを14機購入するため主要部品の事前購入に資金を供給し始めた」と報じた。
参考:Canada discreetly puts money down on 14 additional F-35s
カナダが見直し結果を発表しないのは「見直しに時間がかかっている」のではなく「政治的な理由で発表時期を見極めている」ため
カナダと米国の2ヶ国間関係はトランプ政権のカナダ併合発言や関税問題の影響を受けて大幅に悪化し、New York Times、Defense News、War Zoneなどは「トランプ大統領の併合発言に執着するのではなく取引に集中すべきだ」「どうせトランプ大統領が脅しをかけてきたとしても冗談半分なのだから」「オタワとワシントンの関係がどうであれ装備品調達から米国製を排除するのは賢明ではない」と訴え、F-35A契約の維持や早期警戒機入札へのボーイング参加について楽観視していた。

出典:Mark Carney
しかし、カナダのカーニー首相は「防衛と安全保障上の優先事項」に関する演説の中で「米国の優位性は過去のもの」「現在の米国は覇権的地位を金銭獲得のため利用している」「安全保障分野への追加投資は国内産業を強化して米防衛産業への支払いを少なくすること」「カナダは欧州再軍備計画に参加する」と発言したため、米メディアは「防衛産業がカナダ市場へのアクセスを本当に失うかもしれない」と危惧、ダボス会議での演説でも「もう米国が掲げる秩序やスローガンを支持するのをやめる」と言及して蜜月関係の終焉を宣言。
カナダ政府は17日に発表した防衛産業戦略の中でも「カナダには米国と密接に協力してきた長い歴史があり、今後も強固な米加防衛関係の継続を期待している」と前置きした上で「重要な防衛能力のカナダ化のため国内サプライヤーからの購入を優先する」「共通の目的のためパートナーシップを構築する」「カナダは信頼できる同盟国や多国籍企業との提携を追求して必要な能力を確保する」と言及し、防衛産業協力や装備品調達における米国依存をやめて欧州やインド太平洋地域のパートナーと協力すると打ち出してきた。

出典:The White House
これは「米国と手を切る」という意味ではなく「もう米国への盲目的な追従をやめる」「カナダの国益に合致すると判断された場合のみ協力する」「今後の米国は絶対的ではなく数ある選択肢の中の1つ」となり、トランプ大統領が再三要求するゴールデン・ドーム参加について「カナダの国益に合致するなら参加する」という立場で、この国益とは軍事的合理性のことではないため「ゴールデン・ドームはカナダの安全保障に役立つから参加すべき」というのは野暮だ。
F-35契約見直しも同様だ。カナダは2023年にF-35Aを88機取得する計画を発表し、既に16機分の契約を締結して資金供給を開始しているものの、残り72機分の商業契約が未締結なので「計画された88機取得」には法的強制力はなく「予定通りF-35Aを導入して米国に大きな影響力の行使を許すのか」「F-35Aとグリペンとの2機種体制にして米国の影響力を引き下げるのか」を検討しているが、政治的決定が下されるまでは既存の決定が優先される。

出典:SAAB
ベック国防副大臣も会計委員会で「我々は公僕なので事実を提示し決定が下される」「我々は選挙で選出された指導者から新たな指示を受け取るまで既存の取り決めに従って契約を維持する」「我々は全力で前進しており、F-35Aの到着に備えて地上インフラの整備やパイロットの訓練に集中している」と言及、カナダ国営放送のCBCも10日「カーニー政権が戦闘機購入を再検討している中、政府はF-35Aを14機購入するため主要部品の事前購入(Advanced Procurement)に資金を供給し始めた」と報じた。
2次契約分の14機購入に関連した主要部品への資金供給とは「予定している納入期日=F-35Aの納入順番を確保するためリードタイムの長い構成部品を先に発注しなければならない」という意味で、まだカナダとロッキード・マーティンは2次契約を締結しておらず、CBCも「検討中にかかわらず、追加購入に関連した支払いが始まった」「我々の質問に国防省は検討が続いていると回答した」「政府は戦闘機調達についていくつかの選択肢を持っている」「どちらにしてもトランプ大統領はカナダのF-35導入を中止させる理由をどんどん増やしていっている」と報じ、今回の支払いについても「政治的決定が下されていない以上、必要な措置だ」と指摘した。

出典:U.S. Air Force photo by Staff Sgt. Jana Somero
カナダが見直し結果を発表しないのは「見直しに時間がかかっている」のではなく「政治的な理由で発表時期を見極めている」ためで、カーニー政権の答えは出ているはずだ。
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※アイキャッチ画像の出典:U.S. Air Force photo by Staff Sgt. Andrew Lee





















日本目線で見て、色々考えさせる展開なんですよね。
アメリカ=中国、米中接近を警戒する指摘は見かけるわけですが。
カナダ=中国が、カナダの国益に合致すれば接近する可能性も当然あるわけで、カーニー首相1月に訪中して関係改善していく流れもあるわけですから警戒する必要もあるんですよね。
日本人は決めた相手に一途に尽くすのを美徳に感じる精神があるので「バランス外交」とは相性が悪いですよね。
一途という表現、仰る通りかもしれませんね。
バランス外交まさに仰る通りで、全てを白黒つけず・のらりくらり・グレーで判断を留めたりしながら、狡猾にやって欲しいものだなと。
日本におけるG7と中東情勢なんてまさにバランス外交そのものだと思いますけど…
ガザ戦争の対応は、外交巧者でしたね。
管理人様の仰ってること(日本人)は、日本政府の対応というよりも、一般日本人の傾向(国民性)のことを仰ってるのかなと。
トランプだって任期があるんだし、アフタートランプを見据えているのでは?と思っていたのですが。
トランプがやっていることってかなり強烈なので、その揺り戻しも大きいと思うのよね。
仰る点、非常に大事と思います。
議会採決に造反でてるときもありますし、11月の中間選挙でトリプルレッド終わる可能性も高いですからね。
カネ払っても期日通りに納入されないんだもん
「いつか」納入されるは兵器に限らず話にならないんだよ
あくまで推測ですが。
結局、あっちにウロウロこっちにウロウロした挙げ句、タイミングを逃し、代替え案も打てず、最悪のタイミングでアメ製兵器を買うことになって高値で売られて枕を濡らす、そんなカナダの未来が見えた気がするんですが……
……そうならないことを祈ります。