カナダ政府は米国への依存を引き下げる防衛産業戦略を17日に発表、この戦略の核心はBUILD(構築)、PARTNER(パートナー)、BUY(購入)の枠組みで構成された方針で、今後10年間で1,800億加ドル=約20兆円を装備調達に、2,900億加ドル=約32兆円を防衛・安全保障関連インフラに投資する。
参考:Canada’s Defence Industrial Strategy
参考:Build it here or buy it there? Canada’s defence plan meets Trump’s new arms agenda
参考:Canada launches huge defence plan to curb reliance on US
ここに食い込めない防衛企業は世界的な生産基盤の強化・拡大から取り残され、設備投資や研究開発で大きく差をつけられる
カナダのカーニー首相は昨年の選挙期間中「我々は主権に対する米国の脅威に備えなければならない。米国は我々の土地、資源、水、そして我々の国を狙っているのだ。彼らは我々を支配するためカナダを壊そうとしている。そうさせないためには現実を認識し、もっと努力する必要があり、この新たな現実に対応した計画が必要だ」と述べ、選挙公約の中でも新型潜水艦、大型砕氷船、無人航空機、水中無人機、カナダ製の空中早期警戒機、自走砲、地上配備型防空システムの取得に言及。

出典:SAAB
カナダ軍関係者が明かした投資内容をまとめるとF-35A契約の見直し、早期警戒管制機、潜水艦×12隻、多連装ロケットシステム×24輌、戦車、歩兵戦闘車、自走砲×80輌~100輌、120mm迫撃砲を搭載した戦闘支援車輌×最大99輌、81mm迫撃砲を搭載した軽戦術車輌×最大85輌、徘徊型弾薬などに投資予定で、カーニー首相はBUILD(構築)、PARTNER(パートナー)、BUY(購入)の枠組みを中心に据えた防衛産業戦略を17日に発表した。
“我々は国内生産の構築(BUILD)、重要な防衛能力のカナダ化のため国内サプライヤーからの購入を優先する。我々は先端装備の設計、製造、維持を可能にする強靭かつ革新的な防衛産業基盤を構築すべく、国内能力を育成していく。Buy Canadianは単なるスローガンではない。それは防衛調達における新たなビジネス手法の指針となるものだ。我々は造船、航空宇宙、宇宙、陸上システム、通信といったカナダが既に持つ強みを基盤とする。国内生産の推進はカナダの戦略的自律性を強化し、効果的かつ信頼される防衛パートナーとしての地位を確立させ、紛争時における対応能力を支える”

出典:Canadian Army
“我々は共通の目的のためパートナーシップ(PARTNER)を構築する。防衛調達において合理的であると判断される場合、自国のみで能力を完全に構築できない場合、カナダは信頼できる同盟国や多国籍企業との提携を追求し、我が軍が必要とする能力を確保する。我々は同盟国と共同で構築を行い、輸出、イノベーション、および対内投資を促進する政府間合意を通じて、カナダ企業の海外における新たな商業的機会を創出する。国内の能力が限定的な分野においては、信頼できる同盟国との協力によりグローバル・サプライチェーンにおけるカナダの役割を深化させ、新たな知的財産を確保し、国内における新規能力の開発を支援する”
“カナダには米国と密接に協力してきた長い歴史があり、今後も強固な米加防衛関係の継続を期待している。不透明な時代におけるレジリエンスを確実なものにするため、カナダは防衛産業関係の多様化と新規構築にも取り組んでいる。これには共有された価値観と共通の利益に根ざした欧州連合および英国との野心的かつ包括的な新たなパートナーシップの構築が含まれる。またインド太平洋地域のパートナー、特にオーストラリア、ニュージーランド、日本、韓国との協力機会も同様に模索していく。これらすべての機会においてカナダは主権的統制と重要な知的財産の開発と保持を最優先事項とする”

出典:TKMS
“最終的に自国での構築も、同盟国との戦略的パートナーシップによる構築も不可能な場合、海外サプライヤーからの直接調達(BUY)を検討する。防衛プラットフォームには極めて高度な技術が組み込まれるケースが増えている。それらはネットワーク化され、高度なソフトウェアやAI、その他のフロンティア技術に依存している。外国政府やその国の防衛関連企業は、これらの技術や投入された知的財産に対する統制(ブラックボックス化)を主張しようとするが、そのような統制はエンドユーザーがプラットフォームの運用・維持に必要な知的財産、図面、ソフトウェアのアップデートにアクセスすることを制限するリスクを孕んでいる”
“そのため海外サプライヤーからの直接調達には主権的統制に対するリスク軽減措置が含まれる。さらに「産業技術利益(ITB)政策」に基づきカナダへの再投資義務を負う多国籍防衛企業は、義務を履行する際に自社の優先事項を優先させる傾向があり、例えばカナダ国内の子会社への間接的な業務に投資を振り向けるといった事例が見られる。これを是正するため海外企業が新規の防衛契約において、カナダ国内での直接的な業務の割合を高め、カナダ資本の企業との連携を拡大し、ITB対象の資金をカナダの主要な産業能力を深化させる活動により多く再投資するよう、さらなる措置を講じることができる”

出典:U.S. Air Force photo by Staff Sgt. Zachary Rufus
要するに「自国の防衛産業基盤を構築して国内サプライヤーからの購入を優先し、同盟国や多国籍企業とのパートナーシップを通じて回復力の充実やグローバル・サプライチェーンにおけるカナダの役割を強化し、この方法で入手不可能なものについては海外サプライヤーからの直接調達を行うものの、主権的統制に対するリスク軽減措置を講じ、契約額と同等=100%のオフセット取引を義務づけるITB政策の履行方法(実質的なカナダ国内への投資)についても改善する」という内容だ。
さらにカナダは防衛産業戦略の中で「10年以内に防衛契約の70%(現在は43%)をカナダ企業に発注し、防衛輸出を50%増加させ、2035年までに12.5万人の雇用を新たに創出する」「人員増、新しい装備への交換、スペアパーツの調達や改良を通じて艦艇の稼働率を68%→75%、車両の稼働率を51%→80%、航空機の稼働率を42%→85%に引き上げる」「今後10年間で1,800億加ドル=約20兆円を装備調達に、2,900億加ドル=約32兆円を防衛・安全保障関連インフラに投資する」「これらの投資による波及的な経済効果は1,250億加ドルに達し、全体で5,000億加ドルを超える投資が行われる」と説明している。

出典:Krauss-Maffei Wegmann GmbH & Co. KG/CC BY 4.0
ドイツは2026年から2041年までに計4,002億ユーロ=約72兆円を装備品調達に投資する予定、EUも加盟国の再軍備を加速させる融資プログラム=Security Action for Europeを通じて1,500億ユーロ=約27兆円を融資し、カナダも2026年から2035年までに1,800億加ドル=約20兆円を装備品調達に投資することになるため、防衛産業界に流れ込む今後の資金量は膨大だ。
ここに食い込めない防衛企業は世界的な生産基盤の強化・拡大から取り残され、設備投資や研究開発で大きく差をつけられることになるため、この膨大な資金を取り込めるかどうかは防衛企業にとって死活問題になるだろう。
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※アイキャッチ画像の出典:Canadian Armed Forces





















日本も含めて懸念の一つは『各国どこまで意地を張れるか』だけど、先送りでいいからダブルプーが居なくなったら緊張緩和しないもんかね
そしてアメリカが正気に戻ることを心から願う。
中国は「無駄な戦争しないとお金持ちになれる」というのを体現したんだから、膨張主義やめれば良いのに…。
写真見てて思ったけど、海自の潜水艦が北極海を横断して、向こう側の国に寄港したこととかあるのかな。
カナダさん、もがみ型改どうですか?
とは言え日本はカナダ商戦には参加する気ほぼ無いよね…。潜水艦はカナダ側も興味有りそうだったけどドック空き無いって辞退したしGCAPも日英伊の他には余り入って欲しくないって立場だからなぁ。
日本も腰を上げてくれればいいんですがね…
カナダはGCAP開発には関わらないけれど潜在的購入国なのではと思います
潜水艦も何とかドック開けてカナダも再検討することになってくれれば嬉しいですがそんなことにはまずならなさそうですね。
オフセット契約の商戦に参入しますと法整備をしっかりとしておかないと政官財癒着による汚職の構造化に至るかもしれないと予想。
豪州への護衛艦の商談と違った難しさがあるとは思いますが、百里の道も一歩からと言いますので防衛装備品の仲介取引の実績がある日本の商社ががんばるかもしれませんし今後の展開に注目ですよね。
現時点ではカナダが導入を計画してる機材に相当する商材が無いでしょ。潜水艦はそもそも海自が海外移転に消極的なままだし。
日加移転協定は結んだわけで、今のところは将来に機会があればでしょう。待ちの体制で成果は望めないでしょうけど。共同研究や共同開発を手始めにが常套じゃないですかね。