米国関連

米陸軍の155mm砲弾増産、ポーランド、インド、カナダ企業も契約を獲得

米陸軍は5日「2025年第4四半期までに月8万発の155mm砲弾を生産するため米企業、ポーランド企業、インド企業、カナダ企業に計15億ドルの契約を授与した」と発表。今月中に「月2.8万発」を達成する見込みなので侵攻直後と比較して155mm砲弾の供給能力は2倍になった格好だ。

参考:US Army awards $1.5B to boost global production of artillery rounds
参考:Army making significant strides in artillery production as fiscal year ends

この勢いが持続出来るかどうかはウクライナ支援資金の追加を議会が承認するかどうかに掛かっている

AP通信は4月「米企業がひと月で生産する155mm砲弾(約1.4万発)をウクライナ軍は2日(1日あたり6,000発~8,000発)で消耗する」と報じたことがあり、単純に30倍すれば「ウクライナ軍は月18万発以上の155mm砲弾を消費する」という意味で、この数字は欧米企業がひと月に供給可能な155mm砲弾の数(約4万発)を越えている。

出典:Генеральний штаб ЗСУ

そのため米国は「155mm砲弾の生産量を2025年までに月4万発(2023年春までに月2万発)まで引き上げる」と、米陸軍も増産計画を前倒して「2年以内に500%増=2025年までに月9万発を生産(朝鮮戦争時代と同水準)」と主張していたが、国防総省の調達担当者は9月「155mm砲弾の増産ペースは予定よりも早く進んでいる」と、陸軍の調達担当者も「2024年春までに月5.7万発、2025会計年度までに月10万発を達成するペースで増産が進んでいる」と明かしていた。

米陸軍も5日のプレスリリースの中で「155mm砲弾の生産能力と在庫を増やすため9月末に15億ドル相当の契約を締結した。この契約は2025年第4四半期までに月8万発を達成するのに必要な主要部品、材料、生産能力を調達するもので、国内企業6社(ジェネラル・ダイナミクス、BAE・オーディナンス、アメリカン・オーディナンスなど)と海外企業3社(ポーランド、インド、カナダ)の計9社に契約を授与した」と明かしており、陸軍の調達担当者も「2024年度までに月6万発、25年度までに月8万発、26年度までに月10万発台の生産を計画している」と述べたらしい。

出典:U.S. Marine Corps photo by Lance Cpl. Ryan Ramsammy

因みに2023年中に155mm砲弾の生産能力は「月2.4万発以上」を達成する予定だったが、10月に「月2.8万発」を達成する見込みなので「155mm砲弾の生産能力」は侵攻直後と比較して2倍になった格好だが、この勢いが持続出来るかどうかはウクライナ支援資金の追加を議会が承認するかどうかに掛かっており、国防総省のマッコード会計監査官も「(現状のままでは)155mm砲弾などの弾薬購入契約は遅れるだろう」と警告している。

米国のウクライナ支援は「大統領権限=PDA/米軍在庫から引き出した装備・弾薬を当該国に提供する権限」と「ウクライナ安全保障支援イニシアチブ=USAI/ウクライナ軍が必要とする装備、弾薬、サービスを産業界から調達する権限」で構成され、PDAの口座には54億ドルの資金が残っているものの、USAIの口座には資金が残っておらず、155mm砲弾の増産はUSAIの資金による設備投資や155mm砲弾の購入契約によって支えられているため「USAI経由の資金供給が途絶える」と現在の勢いは減速するしかない。

出典:U.S. Army photo by Eugen Warkentin

国防総省の関係者は常々「企業には株主が存在するため利益率を損なうような過剰投資には消極的だ」と指摘しており、国防関係者が「◯◯が必要なため発注する予定だ」と産業界にメッセージを発信しても「予算折衝の中で調達が取り消されたり数量が削減される」と知っているので、企業は予測や期待だけで動くことはないだろう。

多くの防衛産業企業は「自社製品がウクライナを手助けすることが出来る」と感じているものの、正式な発注契約がない不確かな状況で投資に動くと株主からの突き上げを食らうため、USAIの資金枯渇が続けば短期的にではなく長距的な支援体制=155mm砲弾だけでなくHIMARSのGMLRS弾、パトリオットの迎撃弾、各種スペアパーツ、請負企業頼みロジスティクス、各種サポートなど調達に影響を及ぼす可能性がある。

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※アイキャッチ画像の出典:U.S. Army Photo by Dori Whipple, Joint Munitions Command

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コメント

    • ブルーピーコック
    • 2023年 10月 07日

    創作だと企業や関係者が嬉々として戦争の準備を始めるんだけど、現実はさすがに金儲けや理性が勝るか。

    13
      •   
      • 2023年 10月 07日

      何もなくても生産設備や人員の維持費がかかる
      受注がないとそれだけで赤字になる
      新規に設備投資をしたなら借金の返済も発生する

      3
    • オリバー・ノース中佐
    • 2023年 10月 07日

    永久にウクライナ紛争が続くわけがないから、在庫が補充された後に残った過剰設備はどうするの?という課題の解決方法はあるのでしょう難しいですよね、冷戦終了後以後軍需産業の統廃合が凄かったですし・・・
    日本は火薬製造部門を公営化した方がという記事を以前見かけましたね

    13
      • 匿名11号
      • 2023年 10月 07日

      設備を撤去廃棄する費用を製品(砲弾)価格に織り込むだけなのでは。
      需要が急減したコロナワクチンやマスクがどう対処したかも参考になるかと。

      1
    • 折口
    • 2023年 10月 07日

    もしかして、この状態で米政府がウクライナ支援予算を捻出できなかったり(政権交代で)ウクライナ支援を打ち切ると世界中の企業に発注した砲弾代金の支払い義務と大量の在庫を抱える羽目になるのでは…。来る対中国戦では155ミリ砲弾はあまり出番がないですし、ここで勝ったぶんをしっかりウクライナに押し付けておかないと逆に米政府の砲弾調達が将来に渡って混乱しそうな…

    4
    • 774
    • 2023年 10月 07日

    野戦砲の砲弾製造工程において特殊な設備というのは弾殻を熱間鍛造するプレス金型だけで、それ以外は一般的な中型機械部品の量産ラインとなにも変わらないんですよね。
    だから製造上のボトルネックとなる鍛造金型だけ用意できればそこらの経営難の機械工場を利用して増産すること自体は容易なはずなんです。
    もちろん高精度高品質を求めたらある程度難易度は上がってくるでしょうけど、とにかく数が要ると言う状況ではとにかく作ってA級品は機動砲、B級品は牽引砲などで使い分けるなどすればいいのですよ。
    他にボトルネックになりそうなのは信管ですかね?曳下射撃用のレーダー信管は高度な電子部品ですから増産は容易ではないでしょうが、これもまた量産容易な触発信管との使い分けでなんとでもなるように思うのですよ。作り過ぎて余ってもすぐ腐るようなものでもないわけで。
    なので増産計画の前倒しというのは意外でもなんでもない当然の結果ではないでしょうか。

    9
    • 匿名
    • 2023年 10月 07日

    ウクライナ前線での使用分が足りないだけでなく、そのために捻出した各国備蓄分の充当および増備の話も聞き及びました…よね?
    生産は当面、減りそうもないように見えますけど…。

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