ウクライナ戦況

BBC、ザルジニー解任は時間の問題で両者の相違は限界に達している

Interfax-Ukraine、Kyiv Independent、Ukrainska Pravda、Censor.NETなど複数のウクライナメディアは29日「ザルジニー総司令官が解任された可能性がある」と報じていたが、BBCやEconomistも「ザルジニー解任をゼレンスキーが告げたことを確認した」と報じている。

参考:Недовідставка Залужного. Що ми знаємо, чого не знаємо і що буде далі
参考:The feud between Ukraine’s president and army chief boils over
参考:Volodymyr Zelenskyy prepares to replace Ukraine’s top general

本当にザルジニーが解任されると「これまでの報道内容が事実だった」となる

Interfax-Ukraineは「ゼレンスキー大統領はザルジニー総司令官との会談で解任について合意に達した」と、Kyiv Independentは「ザルジニー総司令官が解任された可能性がある」「参謀本部筋もザルジニー総司令官が解任されたことを確認した」と、Ukrainska Pravdaは「ザルジニー総司令官は呼び出されて別のポジションを提案された」「何処かの大使職を提案されたが彼は拒否した」と、独立系のCensor.NETも「ゼレンスキー大統領はザルジニー解任に関する法令に署名した」「この法令は発表されておらず海外パートナーとの調整が進んでいる」と報じた。

出典:Головнокомандувач ЗС України 

この報道について参謀本部は「ザルジニー解任は事実ではない」と、大統領報道官も「大統領がザルジニーを解任したというのは事実ではない」と反論したが、BBCやEconomistは「ゼレンスキー大統領がザルジニー総司令官に解任を伝えたことを確認した」と報じており、BBCの報じた内容を要約すると以下のようになる。

“ゼレンスキー大統領は29日午後にザルジニー総司令官を呼び出した。ゼレンスキー、ウメロフ、ザルジニーのみで行われた会談の中で『総司令官からの解任を決定した』と告げ、近いうちに解任に関する法令に署名すると付け加えた。この会談内容は夕方6時頃に大統領府の関係者とパイプのTelegramに漏れ始め、7時頃には現地の有力メディアもザルジニー解任を報じ始めた”

“BBCの取材に応じた政府高官は『大統領府と軍部の対立はロシア軍がキーウ周辺から撤退した直後に始まった』と、別の人物も『ゼレンスキー大統領は安全保障分野の体制を刷新したい述べてザルジニー解任の必要性を正当化した』と、空軍関係者も『もはやザルジニー解任は時間の問題だ』『両者の相違は限界に達している』『この相違は軍事作戦や戦争の見通しだけに留まらない』『正直に言えば異なる考えをもつ人間同士の相違、戦争に負けないために不可欠な信頼関係の欠如だ』と述べた”

“それでもゼレンスキーとザルジニーの関係が急速に悪化した原因ははっきりしない。一部の人々は『ザルジニーに対する国民の支持が信じられないほど高いことに大統領府が嫉妬した』『もし大統領選挙が行われればザルジニーはゼレンスキーと競合できる唯一のライバルになる』と考えている。政府高官は直ぐに法令に署名できなかった原因について『西側のパートナーがザルジニー解任を支持せず事態に介入した可能性』と『後任を誰にするのか決まっていない可能性』の2つが考えられると述べた”

出典:左 PRESIDENT OF UKRAINE/右 Головнокомандувач ЗСУ

さらにEconomistも「劇的な1日は議員による安全保障委員会に送付された文書内容のリークで始まり、参謀本部やザルジニーに近い情報筋が『解任手続き進められている』と確認し、Economistが確認したところ29日午後の会議でゼレンスキーはザルジニーを伝えた。ゼレンスキーは『国家安全保障会議書記』というポストを提示したがザルジニーは断った」と報じ、BBCもEconomistも独自の情報源から「ゼレンスキーがザルジニーに解任を告げた」と報じ、Financial Timesも「ゼレンスキーが総司令官の後任を準備中」と報じている。

因みにUkrainska Pravdaは昨年12月「ゼレンスキーとザルジニーが衝突することになった発端」について以下のように書いていた。

出典:ArmyInform/CC BY 4.0

“この衝突の発端は2022年3月に実施された社会調査(本格的な戦争がウクライナ人の政府に対する信頼にどのような影響を及ぼすかというテーマ)にあり、当時のゼレンスキー大統領への信頼度は93%で、最も困難な時期に大多数の市民が軍の最高司令官(ゼレンスキー)を信頼しているのだから素晴らしい結果のように思えるものの、同じように大多数の市民はウクライナ軍も信頼(98%)していた”

“大統領の側近は98%の信頼が最高司令官のゼレンスキーに向けられたものなのかどうかを心配していたが、軍への信頼はゼレンスキーではなくザルジニーに向けられたもので、この時期にザルジニーが個人的な慈善基金を設立したため、この基金がやがて政党に発展するのではないかと大統領府は疑い始めた。参謀本部の関係者も本紙に「当時のザルジニーはゼレンスキーや大統領府と正常な関係を保っていたが、4月22日を境に何かがおかしくなった。ザルジニーは基金のことで混乱して直ぐに諦めた」と証言”

出典:PRESIDENT OF UKRAINE

“ザルジニーの野望を最も警戒しているのは大統領府長官のイェルマクで、ある政府関係者は「侵攻初期に大統領とも滞在していたシェルター内でイェルマクは再三、ザルジニーには基金があるのか、メディア戦に精通しているのか、彼には熱心な支持者達がいるのかなどを気にしていて奇妙だと感じていたが、当時はそれほど重要なことだとは思わなかった」と述べている”

“政治的な対立に巻き込まれることを警戒したザルジニーは意図的にメディアへの露出(Telegramへの投稿とメディアに対する数回の取材に応じただけ)を控えたものの、公の場に姿を見せなくなって露出が減ったザルジニーの行動や発言は逆に大きな関心を呼び起こし、彼のことを神と同一するものまで現れ始めた。しかし当時はハルキウやヘルソンでの歴史的な勝利、反攻作戦の準備が進められていたため摩擦は危機的なものではなく、戦争の立役者だった2人の関係に視線が集まり始めたのは反攻作戦が行き詰まりを見せてからだ”

出典:PRESIDENT OF UKRAINE

本ブログはウクライナメディアや海外メディアが報じる「ゼレンスキー大統領やザルジニー総司令官の確執」について何度も取り上げてきたため、BBC、Economist、Financial Timesが言及した確執の原因は見慣れたもので驚きはなかったものの、本当にザルジニーが解任されると「これまでの報道内容が事実だった(もしくは事実に近かった)」となり、どちらにしても管理人は複雑な気分になるだろう。

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※アイキャッチ画像の出典:Zelenskiy Official

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コメント

    • 古銭
    • 2024年 1月 31日

    解任するのであればザルジニー総司令官の人気を低下させてから(近頃頻繁に話題になる追加動員や再徴兵猶予期間に対する軍の要求などを利用して政治的な攻撃をしてから)だと思っていたのですが、BBC等まで報道を始めたとなるとウクライナ現政権がなりふり構わず早期解任に持って行く可能性もあるのかもしれませんね。

    15
    • ar
    • 2024年 1月 31日

    ザルジニーみたいな基本に忠実で愚直な軍人こそが今の宇軍に必要だとは思うんだけどね
    別にいいじゃん、ザルジニーが野心持ってたところで軍から解任する必要はないでしょ
    それこそ日本みたいに旧軍人が大統領立候補はダメとか法律作ればいいのに

    11
      • 古銭
      • 2024年 1月 31日

      大統領選挙の被選挙権は憲法で保障されているものなので、戒厳令下で憲法改正が(憲法により)禁じられている現状では難しいかと。

      14
      • クル
      • 2024年 1月 31日

      基本に忠実な人はこの状況で「ロシアをウクライナ単独で短期間で完膚なきまでに叩きのめし無条件降伏させる」という方針には間違いなく賛同しませんから…
      ただ大統領府はこのままズルズル終わったら「ロシアにケンカ売って多大な被害をもたらした無能」と国民から評価されますからそんな基本に忠実な人はいりませんよね
      今日日帝が日本国民から否定的に見られてるのと同じです
      ロシア人をいっぱい倒して頑張ったからOKなんて評価してくれるのは外野だけです

      35
    • Easy
    • 2024年 1月 31日

    むしろ面白いのは「ザルジニー本人に解任を告げたのにそれを発表出来ない」というドタバタの方ですね。
    どうやらブダノフ氏に大統領府では内定していたのが、土壇場になってブダノフ本人から断られた、とのことで。
    誰も負け戦の責任者になりたくないので逃げまくる、という光景は1944年の日本軍の人事を彷彿とさせますね。

    33
    • ケイ
    • 2024年 1月 31日

    ザルジニー総司令官が大統領選に出馬して勝利してしまった場合、ゼレンスキー大統領とその腹心達の汚職が白日の下に晒されて一網打尽にされる可能性がある。現在、ウクライナを支援している欧米各国は今年3月の大統領選を実施するように求めているが、ゼレンスキーは戒厳令下にあることを理由に拒否している。ただ、最終的には支援者であるアメリカを筆頭とするNATO諸国に押し切られる可能性もあるから、今のうちにザルジニーを失脚させたのではないだろうか。

    11
    • 朴秀
    • 2024年 1月 31日

    こんなことをやっている場合なんですかね?

    34
    • 桐谷美玲
    • 2024年 1月 31日

    実のところ国民人気が高いだけで大した武勲も無いし大統領府を無視したインタビューをするわで軍人としてみたら無能も良いところ。既に頭飛び越えて作戦指揮命令も下ってるようだし解任されても殆ど影響はないだろう。
    逆にこの程度の人事異動で騒ぐほうがどうかしている。

    4
      • 歴史と貧困
      • 2024年 1月 31日

      >逆にこの程度の人事異動で騒ぐほうがどうかしている。
      民間企業であっても、従業員数30万人を超える巨大組織の総司令にあたるCEOが解任となれば、組織の末端に至るまで多大な影響が出ます。まして、“平時”ではなく、迅速な意思決定が求められる“戦時”ならば尚更です。

      巨大組織の頂点ともなれば、「総司令官の個人的な能力」だけの問題ではないのです。年始にアメリカのロイド・オースティン国防長官が倒れ、指揮権のスムーズな移譲はおろか、バイデン大統領への報告すらされていなかったのが問題とされるのも、彼が国防長官という“軍政上のトップ”であるためでした。

      >解任されても殆ど影響はないだろう。
      上記の理由から、影響が出ないことがありえません。ゲームの世界ではないのですから、現実の人間の組織とは利害関係がひしめき、鈍重で、厄介な代物なんです。

      39
      • 匿名
      • 2024年 1月 31日

      この人事で、現在の戦況に対し、殆ど影響が無い事については概ね同意します。
      政権の数々の政治的失態で、ウクライナ側のリソース不足が深刻化し、ロシア側に前線を押し込まれている最中ですから、誰が後任になろうが変化は生じないでしょうね。

      11
      • kame
      • 2024年 1月 31日

       仰っている通り、問題なのは『国民人気』が高いことなんですよね。第三者の目線からすれば、単に軍事的に成功が出せなかった故の解任にしか感じなくても、当事者であるウクライナ国民にとっては違う印象を持つという事でしょう。
       まあ、軍の総司令官の頭を飛び越して命令を出すような指揮系統自体が既に滅茶苦茶だと思いますし、そこまでするならさっさと解任させて、政府の言う通りにだけ軍を動かす人間を代わりに据えれば良かったのにとは思いますが。

      19
      • 名無し太郎
      • 2024年 1月 31日

      >大統領府を無視したインタビュー

      これはザルジニー司令官の失敗だったと思う。しかし国民に人気のある人物の解任は前線の指揮に、そして海外からの支援にも悪影響を与える。
      特に膠着状態下での解任は、ウクライナ首脳部は精神的に追い詰められていると、自分から述べているようなものだ。

      9
    • 歴史と貧困
    • 2024年 1月 31日

    正直、両者の関係性がここまで悪化しているのは予想外でした。まさかこれほどとは・・・

    もし、「今の不協和音を続けるよりも、思い切って袂を分かったほうがまだまし」と周囲が認識するに至っているなら、本当にまずいですね。戦況が悪化している時に総司令官が解任となれば、誰が後任になるかで揉めざるを得ず、前線で戦い続ける兵士がそれに納得できるかどうかも何も分からない。

    14
      • kame
      • 2024年 1月 31日

       メディアの記事を読む限りだと、一方的にゼレンスキー政権側がザルジニーさんを危険視してるだけのような気がしますし、前線で弾薬不足に悩まされながら戦闘を続けている兵士達が浮かばれませんね。
       正直な話、ウクライナ国民にとってゼレンスキー政権かそれ以外は重要ではなく、ロシアから自分達の生活や生命を守ってくれる人間なら誰でも良いでしょうし、こんな内輪もめを見せられる方がよっぽど支持率が低下するんじゃないかと考えてしまいます。

      37
    • ak
    • 2024年 1月 31日

    ウクライナメディアだけではなくBBCがこのような報道をした。
    というのは穿った見方をすれば、ウクライナの不協和音を報道するよりもザルジニー解任の方が「イギリスにとっては良い事だから」と考える事も出来る訳で。
    ウクライナ国内だけではなく海外でもそう報じられた事で「決定事項」になし崩しにしてしまう為に、外堀埋めだしてるんじゃないかと想像してしまいます。

    現場を知っていて「このままではジリ貧で敗北必至」なのを理解している為に講和路線に傾きかけてる軍部に対して、「絶対に戦争を止める事が出来ない」ゼレンスキーと米英が、講和要素を排除して戦争継続する為の策、なんじゃないかと考えるのは邪推ですかね?

    22
    • general
    • 2024年 1月 31日

    主戦派:ゼレンスキー政権、米英
    講和派:軍部、仏独
    今後はこの2派閥で駆け引きが始まる感じですかね

    13
    • 名無し
    • 2024年 1月 31日

    末期症状が出とりますなぁ…

    13
    • たむごん
    • 2024年 1月 31日

    暖かくて安全な後方で、何をやってるんでしょうかね。

    前線の兵士は、砲爆撃で大量の血を流して(20000対2000が日本でも報道されています)、ネズミに襲われながら塹壕にいて病気になっているというのに…

    戦後の責任追及を恐れているのでしょうか?
    本土決戦中に、醜悪な権力闘争ですね。

    12
      • gepard
      • 2024年 2月 01日

      リンカーンが言ったとされる言葉に『人を本当に試したければ、権力を与えてみよ』と言う言葉があるそうです。
      しかし自分がもしも権力者になったときに”こう”成らないと言える人は果たしていかほどでしょうか?

      権力の本質は甘い毒だと思っています。誰もが毒だと知っていても、辞められない。
      そこに民主主義も権威主義も関係ないのでしょう。

      10
        • たむごん
        • 2024年 2月 01日

        政治家は、「辞めてしまえばただの人」という言葉を思い出しました。

        大手企業の老人社長が、会長になるなど、いつまでも居座っているのを見ても思いますが、まさに仰る通りかもしれないですね。

        ガバナンスは大事ですね…。

        3
    • 匿名
    • 2024年 2月 01日

    かつてのドイツ軍みたいなグタグタっぷり

    1
    • 匿名
    • 2024年 2月 01日

    かつてのドイツ軍みたいなグタグタっぷり

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