ウクライナ戦況

ウクライナメディア、アウディーイウカは壊滅的な状況に近づいている

ウクライナメディアのRBC Ukraineは13日「アウディーイウカや周辺地域で何が起こっているのか公式な情報は何もない」「しかし壊滅的な状況に近づいている」「ロシア軍は前進を続け、市街地でも戦闘が発生し、メディアも街が包囲される脅威を語ることが増えた」と報じている。

参考:“Враг бросил на Авдеевку все”. Как могут развиваться бои за город и есть ли угроза окружения

アウディーイウカで何が起こっているのか?

アウディーイウカ軍政当局のバラバシュ長官は先週初め「ロシアの破壊工作員が市内に侵入したが市街戦は発生していない」「勿論、これを排除するには小規模な地上戦闘が発生するため市街戦が起きているかのような印象を受けるだろう」と主張したが、タブリア作戦軍のリホワ報道官は8日「戦闘はアウディーイウカ北部の民間エリア(ダーチャ)だけでなく市内でも発生している。敵の意図は明確でコークス工場と採石場(ピソチヌイ・カールヤー湖)の間に侵入してウクライナ軍を分断しようとしている」と述べた。

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これを受けてバラバシュ長官も「敵がダーチャを経由してコークス工場に迫っている」「敵は戦力面で何倍も優勢なのに我々はこれを切り抜けている」「Telegram上で時折『アウディーイウカは既に陥落した』という内容を見かけるが真実ではない」『第一にアウディーイウカを守っている兵士に対して無礼だ」「彼らはそれが真実でないことを知っているし、全て終わるというところまで事態が進行するには長い時間がかかる」と主張。

但し、アウディーイウカや周辺地域で何が起こっているのか公式な情報は何もない。参謀本部は毎日「同地域への攻撃を撃退している」「ウクライナ軍はアウディーイウカ包囲を試み続けている敵を阻止し続けて損害を与えている」と報告しているが、戦争研究研究所は「アウディーイウカ市内に侵入したロシア軍が北東部の線路を越えてダーチャに足場を築いた」と主張、ウクライナ人が運営するDEEP STATEのアナリストらも「状況は危機的で混沌としている」と考えている。

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この1週間の動きやDEEP STATEの戦況マップから判断するとコークス工場の東側でロシア軍の支配地域が拡大している。街の北側を守る戦力だけではロシア軍の前進を食い止めるに不十分な可能性がある。

この状況についてウクライナ人軍事アナリストのオレクサンドル・コバレンコ氏は「特に驚くようなことは何もない」「戦力的に劣勢だったロシア軍が4.5万人の兵力を集中させてきた」「現在も兵力と武器を増やし続けている」「我々の戦力はロシア軍に比べて非常に少なく火力支援も弾薬不足で制限を受けている」「ここから適切な結論を導き出すのはそう難しくない」と指摘。

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ウクライナ人軍事アナリストのオレクサンドル・ムシエンコ氏も「以前は敵を局地的に押し戻すことも出来たものの現在では何の成功もない」「軍は戦闘行為が激しいため現地の状況を詳しく話したがらない」「恐らく状況が好転することを期待しているため何も語らないのだろう」と述べている。

アウディーイウカ包囲の可能性に関する専門家の見解

ロシア軍部隊は市内の主要な兵站ルート=インダストリアル・プロスペクト通りの近くまで前進し、この通りまで前進されるとアウディーイウカはコークス工場と市街に分断され、ウクライナ軍の補給は北部も南部も未舗装の野道に依存することになる。そのためウクライナメディアも「アウディーイウカ包囲の可能性」について論じることが増えているのだ。

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タブリア作戦軍のリホワ報道官は11日「敵がコークス工場の少し西にある道路(O-0542)に近づくと物資や兵士の移動が困難になる」「状況は非常に流動的だが敵の意図は把握している」「アウディーイウカの兵站を遮断して街を包囲するため『どこに前進しようとしているのか』を把握している」と述べ、コバレンコ氏も「アウディーイウカで起きていることは(今のところ)包囲ではない」と強調した。

コバレンコ氏は「仮にインダストリアル・プロスペクト通りを失っても野道を経由することでコークス工場や第9地区にアクセスできる」「兵站を未舗装の野道に依存することは最良の選択ではないがアクセスは可能なので包囲される心配はない」「状況が悪化してもコークス工場やアウディーイウカ南部の部隊を野道を通じて撤退できる」と主張したが、依然としてアウディーイウカが陥っている脅威の度合いは深刻で、ムシエンコ氏は「撤退を検討する時期だ」と主張している。

出典:Генеральний штаб ЗСУ

ムシエンコ氏は「アウディーイウカから撤退することになっても悲劇だとは思わない」「ウクライナ軍はアウディーイウカで3つのこと(行政境界線に到達阻止、攻撃抑制、他戦線での攻勢抑制)を成し遂げたと考えている」「現在のアウディーイウカでは攻撃を撃退することも敵を押し戻して側面を切り開くことも不可能だ」「兵士達は最後の力を振り絞って持ち場を守っているものの敵も持てる全てを戦いに投入している」「特に滑空爆弾が大きな損害をもたらしている」と述べ、軍は撤退の検討に入るべきだと示唆した。

アウディーイウカで考えられる3つのシナリオ

ムシエンコ氏によればアウディーイウカで考えられるシナリオは「予備戦力の投入によるアウディーイウカ市内の保持」「戦力の大量動員による北部もしくは南部での反撃」「段階的なアウディーイウカからの撤退」で、1つ目のシナリオは「アウディーイウカ市内の状況の好転」が期待できるものの「損失と疲弊の問題」が改善されないため撤退の可能性が残り、2つ目のシナリオは「市内に対するロシア軍の圧力緩和」を期待できるものの「戦力の大量動員」というリスクがある。

出典:3-тя окрема штурмова бригада

そのためムシエンコ氏は「3つ目のシナリオが最も適切だろう」「段階的にアウディーイウカから撤退して他の防衛ラインでロシア軍の前進を阻止し続ければ良い」「但し、どのシナリオを実行に移すかは指揮官次第だ」と指摘した。

タブリア作戦軍司令官のタルナフスキー准将は11日「担当する作戦地域(ザポリージャ~アウディーイウカ)の状況は緊迫しているもののコントロールされている」「敵はどんな犠牲を払ってもアウディーイウカ、ノボミハイリフカ、昨年夏に失った領土を速やかに占領することを狙っている」「敵は歩兵部隊の攻撃に装甲部隊を参加させることが多くなっている」「ウクライナ軍の兵士達は全ての戦線を維持している」「侵略者は新たに投入された戦力と共に破壊されている」と言及。

出典:3-тя окрема штурмова бригада

この発言を受けてForbesは「予備戦力がアウディーイウカ方面に投入された可能性がある」「ウクライナ軍の中で最も優れている第3突撃旅団が派遣されたかもしれない」と報じていたが、第110機械化旅団のイワン・セカチ報道官は13日「我々に街を保持する十分な戦力はないものの増援が到着している。第110機械化旅団がアウディーイウカに配備されてから約2年が経過したが、初めてローテーションが実施され一部の部隊が戦闘地域から離脱した。詳しく述べられないものの強力な部隊だ」と述べた。

第3突撃旅団が投入されたどうかは不明だが、消耗した第110機械化旅団を交代させるため「強力な予備戦力」が到着したのは事実で、ムシエンコ氏は「どのような目的で予備戦力をアウディーイウカに移動させたのかは疑問が残るが、それも近いうちに明らかになるだろう」と付け加えている。

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※アイキャッチ画像の出典:Генеральний штаб ЗСУ

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コメント

    • たむごん
    • 2024年 2月 14日

    西側諸国は、莫大な援助を与えただけでなく、インフレによる生活苦も甘受しています。
    日本は2兆円の資金拠出を既に行っており、ウクライナ復興支援会議2月19日から始まりますが、能登半島の復興が始まらない中で支援金の積み増しが予想されています。

    『ウクライナ奮闘』『ウクライナ優勢』みたいな発表を続けて、急にアウディーイウカ陥落しそうです・防空ミサイル足りなくなりそうという最近の報道は、西側の情報公開の原則から反していると感じています。
    戦時の報道管制は理解できるのですが、ウクライナは他国の援助で戦争を続けられているため、さらなる情報公開を行うべきでしょう。

    (軍事情報に興味のない)一般の方々が、ウクライナ劣勢の情報が寝耳に水となり・騙されたと感じれば、ウクライナ支援の賛同も得られなくなるのではないでしょうか。

    55
    • シロクマ
    • 2024年 2月 14日

    市内から西に延びる未舗装の道路は、てっきり泥濘や戦闘被害等で通行不能な有様なのかと思っていましたが、少なくともこのルートの利用は可能な状態とのことで安心しました。
    どのみちアウディーウカ放棄ともなれば重装備の携行は諦めざるを得ないでしょうし、撤退経路としてはこれで充分なのかもしれないですね。
    今後は、アゾフや第47機械化旅団などの精鋭で一旦敵の進出を食い止めて、市内からの撤収に移行するのでしょう。とにかく貴重な人命がより多く救われることを祈ります。

    7
      •  
      • 2024年 2月 14日

      ウクライナ兵が歩いてる動画見たけど膝まで埋まるくらいの泥道でした。
      撤退は困難でしょうが脱出してしまえばロシアも追いかけてくるのは困難でしょう。

      7
      •  
      • 2024年 2月 14日

      プロパガンダの有効性を示す一例

      10
    • 名無し
    • 2024年 2月 14日

    舗装もされていない道路を必死に逃げるとか悲惨だなぁ…
    当然砲撃にドローン、戦車といった追撃が来るから足が竦みそう

    15
      • nanashi
      • 2024年 2月 14日

      なぜ撤退しないのかという意見が多いのですが、
      もしかしたら撤退「しない」のではなく「できない」のかもしれませんね。
      ドローンによって監視されている戦場で防御陣地から出て逃げるのはそれこそ自殺行為です、正に袋のネズミと言ったところですね。
      ドローンは機動戦どころか撤退戦さえ封じてしまったのかもしれません。

      41
      • Easy
      • 2024年 2月 14日

      基本的に荒天の日なら大丈夫ですよ。雨が降ってる中を走って6キロぐらいで後方の味方の防衛線にたどり着くので、訓練された兵士なら大丈夫でしょう。訓練されていない兵士は、まあ、諦めるしかないですが。
      あと、道に迷うとゼレンスキーラインの地雷原に迷い込むので、それが一番心配でしょうか。

      10
      • 犬の〆
      • 2024年 2月 14日

      狙撃の格好の的になりそう。。。

      11
    • ポレ
    • 2024年 2月 14日

    脱出ルートは当然ロシア軍が狙ってるので
    ドローンが飛べないような荒天の日に
    畑の中を泥に塗れて逃げるしか無さそう

    先手を打って対人地雷を
    ばら撒かれてる可能性もあるけど

    10
    • Natto
    • 2024年 2月 14日

    行ったことがない、一生行く事が無い土地の名前を戦争や災害で知ることが増えたなあ。

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