米国関連

米軍は長距離攻撃兵器を全力で消耗中、対イラン戦でJASSM-ERを1,000発以上も発射

米軍は対イラン戦でトマホークを850発以上も消耗して問題になっているが、Bloombergも4日「米空軍は2,300発保有していたJASSM-ERのうち1,000発以上を消耗し、本土や太平洋地域の備蓄分を中東に移送するよう命じた」「イラン以外の地域で利用可能なJASSM-ERは推定425発まで減少する」と報じた。

参考:US Deploys Bulk of Stealthy Long-Range Missile for Iran War
参考:Department of Defense Fiscal Year (FY) 2026 Budget Estimates Air Force
参考:Department of Defense Fiscal Year (FY) 2025 Budget Estimates Air Force 

太平洋地域で中国と対峙するのに不可欠で、現状で「全く足りない」と指摘されることが多い長距離攻撃兵器を中東で消耗し尽くす勢い

米国のトマホーク推定備蓄数は保管中のBlock III(推定200発)と合わせても3,360発+、約4週間のエピック・フューリー作戦で850発以上(FY2026の発注率換算で14年分)を消耗したため、備蓄数は2,000発台に落ち込んでおり、Block IVからBlock Va/Vbへの転換生産はFY2024にBlock Vaを274発、FY2025にBlock Vaを252発、FY2026にBlock Vaを237発とBlock Vbを23発発注したが、これは保有するBlock IVをBlock Va/Vbにアップグレードするだけなのでトマホーク備蓄が増える訳では無い。

出典:U.S. Navy photo by Mass Communication Specialist 3rd Class Jonathan Sunderman/Released

ヘグセス国防長官とケイン統合参謀本部議長は「米軍とイスラエル軍がイラン上空の制空権を確保して内陸部への侵入が可能になれば、作戦は精密誘導兵器への依存から脱却し、より豊富な在庫があるレーザー誘導爆弾の使用が増えるだろう」と述べ、米軍は攻撃アプローチを「高価な長距離攻撃兵器を使用したスタンドオフ」から「安価なJDAMや機銃を使用したスタンドイン」に移行したものの、イランの防空システムは完全に破壊されておらず、イラン領空で迎撃されたF-35Aは損傷し、F-15Eは撃墜されイラン領に墜落し、A-10は損傷してクウェート領空まで飛行した後にパイロットが緊急脱出した。

イランやフーシ派が運用するレーダー誘導式地対空ミサイル、目視観測員、電気光学センサー、赤外線センサーを組み合わせたパッシブ方式の防空システムは目標の検出・追尾にレーダーを使用せず、目標に地対空ミサイルを発射する瞬間だけレーダーを使用するため、これに狙われるとパイロットは15秒~20秒の事前兆候しか察知できず、実際に攻撃を受けたパイロットも「完全な奇襲攻撃で対処時間が極端に短い」と述べるほどで、F-35Aも目視による観測とEO/IRセンサーからは逃れることが出来ない。


このユニークな防空システムは広い範囲を保護することも出来ないし、目標を検出できても撃墜できるかどうかは運の要素が絡むため万能な存在ではないが、イランやフーシ派は端から「空からの攻撃を可能な限り阻止する」というアプローチを捨てて「特定の拠点や範囲を保護するのではなく敵機を狩る」という目的で運用しているため、米軍機は何処に隠れているか分からない防空システムに突然「狩りのターゲットにされる」という意味だ。

結局のところ「敵の防空システムを完全に破壊してイラン上空の制空権を確保した」というのは幻想に過ぎず、米空軍は湾岸戦争時も「イラク軍がスカッドミサイルを発射した移動式発射装置の撤収作業に30分かかると考え、これだけの時間があればDSP衛星が発射を検出し、射点の座標を割り出し、戦闘機で撤収作業中の移動式発射装置を破壊できる」と計算していたが、イラク軍はソ連のマニュアルに頼るのではなく「30分かかるはずだった移動式発射装置の撤収作業を6分に短縮する方法」を発見、そのためスカッドミサイルを発射して直ぐ逃走したため、当時のISR能力では移動式発射装置の位置を把握するのが困難だった。

出典:Photo by Staff Sgt. Taylor Drzazgowski

最終的に推定射点や移動式発射装置が隠れていそうな場所をB-52で爆撃してスカッドミサイルの発射を抑制したが、最後までスカッドミサイルの発射を止めることは出来ず、計2,493回のミッションで発射装置によく似た燃料補給車輌や囮を破壊しただけで、本物の移動式発射装置を1基も破壊することが出来なかったため「米空軍最大の失策」と呼ばれている。

ウクライナやイエメンでも「頻繁に移動する防空システム」「兵士が運用する携帯式防空ミサイル」「巧妙に分散しカモフラージュされたセンサー」を完全に把握することも破壊することも出来ないと実証されており、湾岸戦争時のときと比べて無人機によるISR能力が格段に向上しても「移動する、分散する、カモフラージュされる標的」の発見や破壊は以前して困難で、米軍はイラン領空で撃墜されたF-15Eのパイロットと武器システム士官を救出することに成功したが、この救出作戦で故障したMC-130J(推定1.1億ドル)×2機とMH-6(推定5,000万ドル)×1機を破棄したためスタンドインに移行して作戦コストは安価になったのは謎だ。

Bloombergも4日「米空軍は空中発射型巡航ミサイル=JASSM-ERを2,300発保有していたが、エピック・フューリー作戦開始から4週間で1,000発を超えるJASSM-ERを使用した」「米軍は3月末に本土や太平洋地域の備蓄分を米中央軍の基地や英国のフェアフォード空軍基地に移送するよう命じた」「これによりイラン以外の地域で利用可能なJASSM-ERは推定425発まで減少する」「JASSM-ERよりも射程の短いJASSMも保有する2/3がエピック・フューリー作戦に割り当てられている」と報じ、このことは「依然として米軍は作戦コストの高価なスタンドオフ能力に依存している」と示唆している。

もうJASSM-ERの発注数や生産率について細かい数字を挙げないが、仮にエピック・フューリー作戦でJASSM-ERを1,800発も消耗することになれば「FY2025予算説明資料で明示した発注予定数の約4年分(平均年発注数500発前後)」を取得するまで備蓄を回復させることができず、FY2025で550発分の資金を要求したものの450発分、FY2026もFY2025予算説明資料で説明していた542発ではなく389発分しか認められていないため、JASSM-ERの備蓄回復には相当時間がかかるはずだ。

出典:Department of Defense Fiscal Year (FY) 2026 Budget Estimates Air Force

ちなみに、JASSM-ERの契約~納入までのリードタイムは27ヶ月~37ヶ月(FY2025予算文書)で、米空軍は2024年9月にLot22生産分としてJASSM-ER(AGM-158B-2、AGM-158B-3、AGM-158D)を計1,140発発注しており、この数字には対外有償軍事援助分(恐らくオーストラリア分や日本分)も含まれ、Lot22の初回納入は2026年12月~2027年1月頃になると思われるものの、この大量発注は対イラン戦ではなく台湾有事=対中国を意識したものだ。

つまりFY2024で発注した1,000発以上のJASSM-ERが2027年頃に納入され始めても、対イラン戦の消耗分を補充するだけで「対中国向けに長距離攻撃兵器の備蓄を増やす」という意図の実現は相当先送りされることになるだろうと思うが、もう対イラン戦の泥沼にどっぷりとハマっているためトランプ政権は将来の太平洋地域ではなく中東地域に全力を注ぎ込むしかない。

関連記事:イラン軍がA-10を迎撃、パイロットはクウェート領空で緊急脱出か
関連記事:イラン軍がF-15Eを撃墜、米空軍はイラン領内でパイロット2名の捜索救助中
関連記事:イランの報復攻撃で破壊されたE-3の画像が登場、本物なら修理不可能
関連記事:イランの弾道ミサイルと自爆型無人機による報復攻撃、米空軍のE-3も損傷か
関連記事:米軍は対イラン戦でトマホークを850発以上消耗、現在の発注率換算で14年分
関連記事:イランの弾道ミサイルが再びサウジ基地に着弾、米空軍の空中給油機が複数損傷
関連記事:米空軍のF-35Aがイラン上空で迎撃された可能性、中東の米軍基地に緊急着陸
関連記事:イランで11機も撃墜されたMQ-9が価値を証明、有人機が撃墜されるよりマシ
関連記事:米空軍の空中給油機5機が損傷、イランの弾道ミサイルがサウジ基地に着弾
関連記事:米空軍のKC-135が対イラン作戦に参加中に墜落、乗員6人の生存は絶望的
関連記事:トランプ大統領がフィーリングで始めた戦争の費用、最初の6日間だけで約1.7兆円
関連記事:Shahed-136が米国や中東の防空網をすり抜ける原因、装備が最適化されていない
関連記事:イラン戦争の戦費は10日間で約1兆円、イランの報復能力は大幅に低下
関連記事:米国と中東諸国がウクライナに支援を要請、迎撃ミサイルなしでShahed-136と戦う方法
関連記事:イランの反撃、9日間でミサイルと無人機を3000発以上も中東諸国に発射
関連記事:イランの反撃、6日間でミサイルと無人機を2000発以上も中東諸国に発射
関連記事:イランの攻撃を受ける中東諸国、米国製迎撃ミサイルを3日間で約800発消耗
関連記事:米国とイランの戦争は消耗戦、どちらが先に目的を達成するかを競う戦い
関連記事:米イラン戦争、オリジナルバージョンのShahed-136が米防空網を突破

 

※アイキャッチ画像の出典:U.S. Air Force photo by Airman 1st Class Caleb Schellenberg

イランの弾道ミサイル攻撃、終末段階の迎撃を回避する手段を編み出す前のページ

関連記事

  1. 米国関連

    米空軍トップがE-7導入へ前向きな発言、但し本命はレーダー衛星を活用した分散型ネットワーク

    E-7導入に否定的だった米空軍のブラウン参謀総長が今月20日に開幕した…

  2. 米国関連

    米軍が開発していたウクライナ向け長距離攻撃兵器、トランプ政権が輸出を承認

    米空軍は昨年発行した長距離攻撃兵器=ERAMの提案依頼書の中で「射程距…

  3. 米国関連

    バイデン政権、議会にウクライナ向け経済支援として118億ドルを要請

    バイデン政権は7日「ウクライナ向けの経済支援(118億ドル)を承認して…

  4. 米国関連

    米空軍、F-35A調達をシンプルな第4.5世代以上の非ステルス戦闘機に変更したい

    前回の記事で米空軍がF-16ではなく「4.5世代戦闘機もしくは第5世代…

  5. 米国関連

    米下院が608億ドルのウクライナ支援法案を可決、ロシア凍結資産の転用も

    米下院は停滞していた対外援助パッケージの全要素(ウクライナ支援法案60…

  6. 米国関連

    米軍を最も安価に攻撃する方法を明かす米海兵隊大将、答えはコストコで売っている

    米中央軍の司令官を務めるケネス・マッケンジー米海兵隊大将は「米軍を最も…

コメント

  • コメント (4)

  • トラックバックは利用できません。

    • 名無し
    • 2026年 4月 06日

    ほんと洒落にならんな
    ネットじゃこのイラン戦争が対中国のため云々言ってる人をわりと見かけたりするけど、一体どこがためになってるんだw

    19
    • YF
    • 2026年 4月 06日

    トマホークに次いでJASSM-ERも日本への納入は遅れそうですね。
    プラットフォームのF-15JSIがいつ配備されるかわからない状態なので遅れてもあんまり影響ないんでしょうけど。
    JSMもいつ撃てるようになるかわからないですし、結局国産でなんとかするしかないでしょうね。

    2
    • たら
    • 2026年 4月 06日

    こういう兵器の在庫ってどう考えるのが適正なんだろう?ラストエリクサーのように使わないまま錆びさせるのも勿体ないし、いざってときに足りないのも困るし

    2
    • AKI
    • 2026年 4月 06日

    一国に兵器輸入を頼る時代じゃないですね。
    同じく待たされる時間がかかるにしても、欧州兵器も検討する時代か?

    せめてドローン分野は、アメリカ以外を増やしてほしい。

    1

ポチって応援してくれると頑張れます!

にほんブログ村 その他趣味ブログ ミリタリーへ

最近の記事

関連コンテンツ

  1. 米国関連

    米陸軍の2023年調達コスト、AMPVは1,080万ドル、MPFは1,250万ド…
  2. 欧州関連

    アルメニア首相、ナゴルノ・カラバフはアゼル領と認識しながら口を噤んだ
  3. 北米/南米関連

    カナダ海軍は最大12隻の新型潜水艦を調達したい、乗組員はどうするの?
  4. 欧州関連

    BAYKAR、TB2に搭載可能なジェットエンジン駆動の徘徊型弾薬を発表
  5. 中国関連

    中国、量産中の052DL型駆逐艦が進水間近、055型駆逐艦7番艦が初期作戦能力を…
PAGE TOP